縁切り鋏
洗濯ネットのファスナーの取っ手が取れ、どんなにしても開けることができない。
とうとうあきらめて鋏でネットの入り口を切ることに。
つと、思い出した。
この鋏、母の形見だ。
母が元気なころから何かにつけて使っていた鋏。
亡くなる少し前から我が家で暮らしていたのでいくつかの小物が残っている。
服類はいつの間にか姿を消していく中で、
デイケアの手帳や財布、スカーフなど、何でもないものが時々出てくる。
「また、鋏か・・・」
鋏に関してもうひとつ形見が残っている・・・
遠い昔、逝ってしまった人の今生に残っている唯一の形見の”糸切り鋏”
40数年前、田舎町の初市で釣りの仕掛け用に求めた糸切り鋏。
よく切れるので、裁縫用に使うようになり
そのことも忘れるぐらい手になじんだ年月。
病床のベッドで、この糸切り鋏を使い釣りの仕掛けを作っていた。
果たして、自分は死ぬことを予感していなかったのか・・・
数え切れない糸を切ってきた。
でも本当に縁の糸が切れるのだろうか
音も今出した音を手離さないと新しい音は奏でることはできない。
今の音を手離すから”調べ”が生み出される
ぷちぷちと縁の糸を切っているつもりで、
時も新しい縁も紡ぎ出している
そんなことを思う、冷たい朝のひと時。
そろそろ、各地で初市が始まる。
by tokinoyakata
| 2014-01-11 14:56
| 幻想写真館